リサーチ情報

第7回 HR Competency Study

HR Comptency Studyを実務的視点から理解するためのガイドブック

人事コンピテンシースタディ(Human Resource Competency Study:HRCS)は、米国ミシガン大学、RBLグループに所属するデイビッド・ウルリッチ教授らが1987年から5年毎にグローバルベースで実施している調査です。
本調査は、人事部員・部門の活動実態についてグローバル統一のアンケート調査を行い、今日のビジネス環境において人事が事業に貢献するために求められるコンピテンシーを明らかにするものです。
今までアジア、アフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、中東、オセアニア、北米地域にて実施されてきた本調査ですが、2015年の第7回調査より、日本能率協会(JMA)がパートナーとなり、日本企業が初めて参加しています。

調査対象:全参加者数:30,042人(前回対比 1.51倍)
全参加社(組織)数:1509組織(前回対比 2.38倍)
全人事部門の評価対象者数:3877人(前回対比 1.47倍)
調査項目: 1.組織プロフィール 2.受診者プロフィール
3.コンピテンシーアンケート
4.人事活動の特徴
5.組織の特徴 6.事業概況

本調査方法の特徴として、人事部門の評価対象者本人の自己評価だけでなく、人事部門内の上司・部下及び人事部門外の同僚による360度評価を行い、評価の客観性を担保していることが挙げられます。また、調査項目も事業・組織全体に関するものになっており、その高い包括性も、他の人事コンピテンシー調査にはみられません。

本調査では、アンケート結果を基に、その時々の経営環境の中で、事業に影響を及ぼしている人事部員のコンピテンシーを抽出しています。図1は、今回の調査から導き出されたコンピテンシーモデルです。

図1 人事部員のコンピテンシーモデル

左側の「Strategic Positioner」(組織内外の事情を見極め、その結果を人事実務の洞察に結びつける)が、人事の活動の方向性を決めるコンピテンシーです。そして活動を支える基礎部分は、下部の「Compliance Manager」(自ら法令を順守し、従業員の法令に順守した行動も促す)、「Analytics Designer and Interpreter(ビジネス・人事データを管理・処理し、意思決定のためにそれを解釈・活用する)、「Technology and Media Integrator」(好業績な組織づくりを後押しするためテクノロジーやソーシャルメディアを活用する)にあたります。

戦略的に定められた活動を実現するための手段としては、図1上部3つのコンピテンシー、「Culture and Change Champion」(ビジネス需要に合わせて、組織の柔軟性を調整したり、組織内のフォーマルな関係性を構築する)、「Human Capital Curator」(現在・未来のビジネスで求められる適切な人財を特定、育成する)、「Total Rewards Steward」(従業員に対して金銭的・非金銭的報酬を提供したり、社会に対して有形・無形の価値を創出する)が掲げられています。

また、活動の実現のためには手段のみならず、有言実行によって社内外の信頼や尊敬を得て、組織を動かさねばならないことから、右側の「Credible Activist」(信頼できる活動家)もキーファクターとなっています。

今回のコンピテンシーモデルの最大の特徴は中央に「Paradox Navigator」(職場で起こるさまざまな矛盾にうまく対処して、本質的には相反するアイデアや結果を最大限に活かす)を据えていることです。いかなる人事の業務にあたっても、例えば個人と組織、短期と中長期、といった相矛盾する要素のバランスをうまく取り、組織パフォーマンスを上げていく能力が、今の人事部員に求められているといえます。

9つのコンピテンシーの評価は5段階で各国・地域別に集計されています。図2は、日本とそれ以外の地域をグラフ上で比較したものですが、Technology and Media Integratorがグローバル水準から特に下回っていることが見て取れます。

図2 9つのコンピテンシーの評価――日本とグローバル平均の比較

©2015 the RBL Group All Rights Reserved.

Technology and Media Integratorとは、人々の協働・働きやすさ・生産性を促進するためにソーシャルメディアやテレワークを活用したり、人事業務の効率化のために人事情報システムやコミュニケーションツール等のテクノロジーをうまく用いることを指しています。

このコンピテンシーは後述の「人事部門の活動」の中で述べられるInformation Managementとも深い連動性があります。人や組織に関する情報やその分析、そこから得られる洞察を用いて経営・事業に貢献する人事部門の活動が増えれば、その情報媒体ツールとしてテクノロジーの必要性も高まるものと考えられます。

この分析結果から、人事部員の自信の欠如が垣間見られる一方、「まだまだやるべき仕事はたくさんある」という高い意欲の反映とも解釈できます。いずれの場合にも、行動を伴い成果に結びつけることが、自己評価を高める道筋であると考えます。

図3 人事部員のパフォーマンスに影響を与えている各コンピテンシーの割合とコンピテンシーに結びつけて影響が出ていると説明できる割合

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そこで次に、各コンピテンシーと人事部員のパフォーマンスの有効性との相関から、Credible Activistの重要性に目を向けてみます。

有言実行によって周囲の信頼や尊敬を獲得していくコンピテンシー、Credible Activistは、グローバル共通で人事部員のパフォーマンスに最も影響を与えていますが、ここで注目したいのは次の2つの事実です。

まず先述の通り、日本では総じてTechnology and Media Integratorのコンピテンシーが弱いだけに、それが発揮できている人事部員が、周囲から高く評価される傾向があるということ。そして第二に、人事部員のパフォーマンス全体を100%とした時、その要因を9 つのコンピテンシーに結びつけて説明できる割合が、グローバルでは約60%だったのに対し、日本では約26%だったことです(図3)。

こうしたことから、日本では、人事部員のパフォーマンスは、個人のコンピテンシーというよりも、人事部全体の活動、組織文化等その他のファクターに影響されていることが推察されます。

以上は人事部員のコンピテンシーについての言及でしたが、以降は人事部門としての活動に着目します。その活動がステークホルダーに与えている影響、及び組織・業績の関係性についてみていきます。

本調査では、人事部門の活動を以下の4つに集約しています。

1. Employee Performance HR Practices

トレーニング、報酬、人事評価など人材のパフォーマンスに関わる活動

2. Integrated HR Practices

事業戦略と人事戦略を連動したり、あらゆる人事業務を統一していく活動

3. HR Analytics Practices

人事情報を分析して、事業に活用する活動

4. HR’s Involvement with Information Management

現場が必要な情報を収集・活用することを支援する活動

図4 人事部門の活動がステークホルダーに与える影響

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図4を見ると、2の事業戦略と人事業務を連動する活動が組織内のステークホルダーに多大な価値をもたらす一方で、現場が必要な情報収集・活用を適宜行う4のInformation Managementの活動が顧客・投資家・社会といった外部のステークホルダーに重要視されていることが分かります。

では、人事部門の活動は、業績・組織にどのような影響を与えているのでしょうか。

図5 人事部門の活動が業績・組織に与える影響

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図5からは、概してトレーニング、報酬、人事評価といった人事の基本的な活動(1.Employee Performance HR Practices)が、組織及び業績に最も大きな影響を及ぼしていることが分かります。また、ここでもInformation Managementの重要性が注目され、労働生産性、新商品・サービス開発、顧客満足への影響が大きくなっています。

ただし、新商品・サービス開発に関しては、この4つの人事の活動との相関性が、他指標と比較して10%と極めて低いことも事実です。人事部門として新商品・サービス開発に直接的な働きかけを行うことの難しさ、あるいはその働きかけを数値で見える化することの難しさを表しているといえます。

前半の人事部員のコンピテンシーに関する調査結果から、ITを活用した従業員の多様な働き方の支援、業務の効率化を図っていくことが求められていることが分かりましたが、ITを通じた業務の効率化は人事部門内の仕事についても然りで、定型業務を効率化して、より付加価値の高い仕事にシフトしていく必要があります。

T人事の定型業務効率化によって新たに創出された時間は事業貢献に充てることができます。スムーズな組織運営や業績向上を支援するために、現場の組織・人事課題をより深く理解し、その解決に人事の知恵を持って関わっていくビジネスパートナーとしての役割遂行が期待されます。現場にしっかりと踏み込んでいくとなると、そこで必要とされている社内外の情報を適切に提供する活動(Information Management)が求められることはいうまでもありません。

以上が、今回のグローバル及び日本企業の調査結果から共通して見えてきた結果と、それに対する見解です。しかし、実際のところ、これらの本調査から導き出された日本企業の強化ポイントはそのまま各社に適用できるものではありません。強化ポイントは業種、業態、事業規模等によって異なります。また、1つの企業の中でもその時々の経営戦略によって、取り組みは違ってくるはずです。

ゆえに、この9つのコンピテンシーと4つの人事活動を1つの指標と捉え、各社の人事パーソンの能力、そして事業を支援する人事活動を強化するための一助として活用していただけることを願っています。