価値を作り出す人事に進化するための大きなコンセプトとして、
“HR is not about HR, but helping the business win in the marketplace”
(人事は人事のためにあるわけではなく、市場でビジネスを勝たせるためにある)
があり、このコンセプトを実現するためのアクションを、3つのカテゴリーに分けて紹介します。
1つ目のカテゴリーはどのような認識が必要かというマインドセットについてです。
1.人事のサービスの価値は人事が決めるのではなく、その受け手が決める
2.社会・技術・経済・政治・環境・人口動態といった外部環境に目を向ける
3.“Who are the customers or stakeholders for HR?”の問い。従業員だけではなく外部のステークホルダーに対しても目を向けて人事施策を考えること、つまり“Outside/In”の思考が求められています。
2つ目のカテゴリーとして、人事が目を配っておかなければならない、人事分野のトレンドがあります。ビジネス戦略会議において、財務担当者が「この戦略を実行するための予算、資金があるか」、マーケティング担当者が「この戦略を市場にどのように投入できるか」という問いを持つのと同じように、人事は「この戦略を実行するために適切な人材がいるか、生産性があるか、エンゲージしているか」について専門的知識・洞察を提供できます。組織が向かうべき方向に人的資源を導いてくためには、以下のチェックポイントが有用です。
1.適切な人材を採用しているか
2.既存の人材に学びの機会を提供して、そのパフォーマンス向上を支援しているか
3.パフォーマンスの高低に応じた、適切な異動・配置を行っているか
4.従業員が組織や仕事にコミットして、ベストを尽くすように働きかけているか
5.従業員が仕事の意義を見出せるようにしているか
多くの人事がここ30年くらいに亘って、上記のように人材にフォーカスした施策を講じてきましたが、第7回HR Competency Studyにおいて1,200の企業・組織を調査したところ、その80%が人材よりも組織を重視すると回答しました。本調査では、ビジネスの結果に対しては組織の方が4倍のインパクトを与えるという結論を導き出しています。人事は人材の採用、トレーニング、報酬等について当然のことながら考えなければなりませんが、本当に関心を払うべきは、組織設計、文化形成といった組織に関することではないでしょうか。例えば、従来型の官僚的組織は統率がとりやすい一方で、役割やルールが明確に決まっているため、世の中の変化には対応しにくいです。昨今では、市場に則して変化をしていく、エコシステムを有した組織が出現しています。この組織形態はマーケットが求めていることに応じて、ネットワークを構築することができます。こうした、即座に環境に対応できる組織の形成も、人事としては考えていかなければならないでしょう。
最後のカテゴリーは、人事をどのようにアップグレードするのか、ということです。適切な人事部門を形成するには大きな原則があリます。まず、人事のトランザクション業務と戦略業務を分けることです。給与、退職、オリエンテーションといったようなトランザクション業務はかつてはアウトソースをされていましたが、現在はデジタルによってインソースされてきています。戦略に特化した結果、人事部門はあらゆるステークホルダーに対して価値を創出していく、専門サービス企業のようになります。専門組織になるときの1つの重要な視点として、「関係性」があります。ここ20年に亘って人事部の中ではそれぞれの「役割」を明確化してきました。しかしながら、「関係性」があれば「役割」が必要とされないこともあります。つまり、お互いを尊重し、お互いが持つ課題やその解決について気にかけていれば、誰が何に責任を持ってやるべきか、自ずと理解できます。人事としては「役割」を明確化することだけではなく、「関係」を重視する考え方も必要であると考えます。
人事パーソン1人ひとりについていえば、我々は人事プロフェッショナルにとってどのような能力・スキルが必要なのかを30年以上に亘って研究(HR Comptency Study )し続けています。これまでの7回に亘る調査で、123のコンピテンシーを特定しました。価値を創出できるHRコンピテンシーモデルで特に重視しているのは、Credible Activistであるということです。実行を伴い周囲から信頼を獲得できる人事であれば、事業について議論する会議に呼んでもらえるようになり、一旦会議に呼んでもらえるようになれば、そこからビジネスやビジネスの意思決定にへのインパクトを与えられるようになります。単に信頼されている人というわけではなく、ビジネスで結果を出していくためには、組織の中にある様々な矛盾(例えば、短期と長期、ボトムアップとトップダウン)を乗り越えていく必要もあります。我々の調査は、1987年の第1回調査から人事が素晴らしい進歩を遂げてきたことも証明しています。例えばビジネスへの理解を5段階で評価したときに、1987年は3.17だったスコアが、2016年の調査では4.13になっています。2020年に第8回目の調査を世界的に実施します。日本では日本能率協会が本調査のスポンサーになっています。多くの日本企業の参画を期待しています。