People Analyticsワークショップ | HR Leaders NEXT
People Analyticsワークショップ
2020 HR Leaders NEXTカンファレンス C1セッション
People Analyticsワークショップ
Todd Brodie
Master Facilitator Society for Human Resource Management (SHRM)

2020HR Leaders NEXTカンファレンスでは、人事プロフェッショナルのための世界最大の団体、Society for Human Resource Management (SHRM)がグローバルで実施している“People Analyticsワークショップ”(通常は2日間で実施)を、4時間のオンラインプログラムにカスタイマイズし、日本で初めて開催しました。ケーススタディやグループ討議を取り入れた実践的なプログラムの概要をお知らせします。

1.People Analyticsとは?
まず初めに、People Analyticsとは何かを理解しましょう。従来の人材マネジメントの中では、例えば、離職率、労働時間、労務構成比など「人」に係る数値を、人事活動の結果や事実を知る目的で用いてきました。それらの数値はいわゆるHR Metricsと呼ばれるものです。一方、「人」に関するデータを把握するだけでなく、蓄積・分析して、効果的なビジネスの意思決定に繋げていくのがPeople Analyticsです。段階的に言えば、HR Metricsを初期レベルとして、以下のように分析レベルが成熟していきます。

Level 1:Descriptive 上記のようなHR Metricsを用いて、起こったことを把握する
Level 2:Diagnostic なぜ起こったのかを知るために、データ間の因果・相関関係等を分析する

世界的に見て、85%くらいの組織がLevel1~2のステージに留まっていると言われています。そこからLevel3に至る間に、「過去に起こったことへの反応」から「未来に起こることへの積極的な関わり」に進化する分岐点があります。

Level 3:Predictive 統計、モデルリング、機械学習およびデータマイニング等によって、どんな選択肢があるかを予測する
Level 4:Prescriptive 上記Level 3で選択肢を特定した後に、アルゴリズムを使ってそれぞれの場合にどのようなことが起こり得るかを想定し、最終的に何を選び、何をすべきかを明らかにする

私たちが実務で直面する課題に対応する時に、常にLevel 4が必要というわけではありません。Level1および2のように、過去の事象を示すデータの分析で十分な場合もあります。課題によって適切なLevelが異なるということです。

2. People Analyticsの4つのステップ
<Step1 準備>
1) 事業・組織上の問題を特定する
現在問題となっていることだけではなく、より良く(改善)したいことも対象となります。問題の特定にあたっては、ビジネス上の戦略的優先事項とそれを達成するための課題を知る一方で、人材のパフォーマンスがビジネスにどのような影響を与えているのかも把握する、ビジネスと人の両方の視点からの考察が求められます。
2) その問題の根本的原因を究明する
例えばフィッシュボーンチャート(特性要因図)、なぜなぜ分析を用いて表面化している問題を要素分解し、真因を探ることができます。
3)仮説を立てる
「もし~だったら、—–になるだろう」というフォーマットで仮説を立てることができます。当たり前のような内容であっても問題ありません。データを持って証明できなければそれが事実とは言えず、仮説のレベルであるからです。

<Step2 データ収集>
従来のデータ分析業務では、データを見てどんな問題が解決できそうかを考えがちでしたが、People Analyticsでは、Step 1の通り、組織・ビジネスの課題に基づき質問を作るところから始まり、その問いから仮説を策定し、仮説を証明するために必要なデータを集めます。データというと、定量的データが重視されがちですが、それだけではコンテクストが不足します。インタビューや従業員調査等で得られる定性データによる補完が有効となります。
それらのデータを収集するために確認しなければならないのは「システム」です。ここで言う「システム」とはデータが保管されている物理的なツールをだけではなく、手続き・施策・ワークフロー・文化などデータが生じ得る一連の実務全体を示しています。ビジネス課題にアプローチするためには、財務データや研究開発のKPIなど、人事部門外のデータにも目を配らなければなりません。こうした様々なデータを収集するにあたっては、データを取り扱う際の安全性や秘匿性を担保する仕組みや基準があるかどうかも必ず確認しましょう。

<Step 3 データ分析>
収集したデータの評価から始めます。つまり、そのデータが信頼できるものかどうかです。例えばデータ入力の規則が曖昧な中で、多くの人が入力しているデータである場合には、その信頼性が危ぶまれるかもしれません。評価・スクリーニングして収集したデータをグループ分けした後、クリーニングを行います。例えば重複の排除、データ項目の統一、欠損データ・異常値の確認などです。そしてコード化し、分析を行います。
分析プロセスで留意しなければならないのは、私たち一人ひとりの中にある「バイアス」です。「バイアス」をゼロにすることは不可能なため、最小限にするためには、まず「どんなバイアスが、どんな時に生じるのか」を認識する必要があります。
最も典型的な「バイアス」として、情報をフィルタリングするときの「バイアス」があります。例えば直近のデータに目が行きやすいといったことです。また、データをあまりにも単純に見てしまって、尚早な判断を下すことも起こり得ます。あるいは、情報が不足している時には、ステレオタイプ的な見方で、それを埋めようとしてしまうこともあります。
こうした「バイアス」が必ずあるとすれば、複数の人で分析を行うなど、「バイアス」に左右されないデータ分析を心掛けなければなりません。

<Step 4 ストーリー構築>
People Analyticsのプロセスでは、サイエンスとアートを行ったり来たりします。ビジネス・組織上の課題を特定し、その根本原因を探った上で仮説を立てるのは、正解や不正解がないアートの世界です。一方、仮説を検証するためにデータを集め、分析することはサイエンスです。そうして得たデータを意味のあるストーリーに変えていくのは、再びアートになります。このストーリー構築で最も考慮すべきは、ストーリーを伝える対象が誰かということです。そのオーディエンスの共感を得られるような、そしてその具体的な意思決定や行動を促すことができるような提案でなければならないのです。

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