タニタの考える働き方改革 ~日本活性化プロジェクト~ | HR Leaders NEXT
タニタの考える働き方改革 ~日本活性化プロジェクト~
2020HR Leaders NEXTカンファレンス  B4セッション
タニタの考える働き方改革
~日本活性化プロジェクト~
二瓶 琢史氏
株式会社タニタ 経営本部 社長補佐 合同会社あすある 代表社員
タニタの考える働き方改革 ~日本活性化プロジェクト~

 

スピーカー】二瓶 琢史 氏 株式会社タニタ 経営本部 社長補佐/合同会社あすある 代表社員

1.タニタの歴史に見る経営スタンス

1944年に設立したタニタは、シガレットケースをはじめとした喫煙器具の製造・販売からその事業をスタートさせました。喫煙器具の事業はその後、電子ライターが主軸となりましたが、100円ライターの台頭により同事業は停滞します。そこで、当時の経営者は体重計をはじめとした「健康をはかる」ビジネスに事業をシフトしました。これが、現在のタニタの礎となっています。その後は、体重計のデジタル化、体重に加えて脂肪や筋肉も計測できる体脂肪計の開発などによって、製品の幅を拡大していきました。昨今では、はかったデータを活用する事業のほか、フィットネスクラブや食堂を展開するなど、「健康をつくる」サービスへとその事業領域を広げています。こうした変遷の中で、節目節目において、経営者が自ら進んで事業変革を主導してきたことが、タニタの特徴です。

挑戦と変化の歴史を通じて企業の財産として受け継がれてきたのは、勿論キャッシュ、製造設備、製品、販路、顧客など様々ですが、何よりも「人」であるということがタニタの経営者の考え方です。「人」に着目したときに、経営者としての課題が2つありました。1つは、経営には良い時も悪い時もあり、従業員には、経済的にタニタという会社に依存するのではなく、悪い時にはタニタの外でも稼げる、あるいはその余力をもってタニタを救えるようになってほしいということです。もう1つは「人」を財産として考えたときに、その価値を最大化するための「やる気」です。やらされ仕事では「やる気」は生まれません。仕事を自分事化する仕掛けが必要だと考えました。

こうした経営者の想いを背景に、2015年末から検討・議論を進め、2017年から実施しているのが、社員が個人事業主(フリーランス)となって働く「日本活性化プロジェクト」です。会社と個人が雇用関係だけにとらわれず、個人が活き活きと自分の仕事に向き合うことは、健康的な働き方につながると考えており、私たちはこの取り組みを健康経営の一つとしても捉えています。

 2.会社と個人の新しい関係性

これまでの日本社会では、会社が個人を抱え込み、そのキャリアや生活を保障してきました。経済が右肩上がりの時や国内での安定した事業を前提としている場合には、この関係性が上手く機能していたのだと思います。しかしながら、この抱え込みが個と組織間の相互依存を生む側面もあり、先行き不透明な時代に、いざという事態が起こった時には、共倒れになる危険性があります。これからは会社と個人の関係性が「抱え込み」から、「惹きつけ合い」あるいは「支え合い」に変わっていくと考えています。

社員と、日本活性化プロジェクトで個人事業主になったメンバー(以降、活性化メンバー)の主な違いは、仕事のやり方です。社員においては、基本的に会社が指定した仕事を、会社の指示に従って遂行します。一方、活性化メンバーは独立した事業主ですから、会社から依頼された仕事について、引き受けるかどうかの自己判断を経て、引き受けたからには、働く場所や時間も含めて自分のやり方で、仕事を完遂します。また現在のタニタでは社員は原則、副業・兼業が認められていませんが、活性化メンバーの場合はタニタ以外の仕事も自身の裁量で行うことができます。自ら考え、新しい価値を生み出そうとする人にとっては、それに合致した働き方を選択できる機会になっています。

 3.個人事業主も安心して挑戦できる仕組みづくり

そうはいっても、このプロジェクトを社内で告知した当初は、不安の声が多く聞かれたことも事実です。まず、個人事業主になると仕事や収入が不安定になることへの不安があります。この不安を払しょくするために、社員として担当していた業務をそのまま委託業務(基本業務)とし、社員時代に支払われていた給与・賞与相当(会社が負担していた社会保険料等を含む)をベースに、固定報酬(基本報酬)を設定しました。そして基本業務以上の業務を引き受けたときには、報酬が別途追加されること(成果報酬)によって、安定感だけでなく挑戦意欲も喚起する仕組みになっています。

その次に多く聞かれた声は、契約が更新されないことへの不安です。これに対しては、3年間の複数年契約を、1年ごとに更新する仕組みにしました。つまり、毎年更新する時点で、その年+2年の契約ということになります。万が一、更新に至らなくても既存の契約が2年残りますので、いきなり仕事を失うことはありません。この仕組みは会社にとってもメリットをもたらしています。契約を更新しないからといって、その業務の担当者が急にいなくなることにはならないので、業務を途絶えさせないためのリスクヘッジになっているのです。

最後に社会保障に関する懸念もありました。社員でなくなると、それまで会社で加入していた厚生年金や健康保険から抜けて、自分で国民年金や国民健康保険に加入し直す必要があります。社員時代に比べて保障が手薄になると感じるのであれば、民間の保険や個人年金などから、自分や自分の家族に合ったものを選んでいかなければなりません。その時に社員時代と同等の社会保障が付けられるように、社会保障費を基本(固定)報酬の中に組み入れるようにしています。

いずれも自立に向けた動機づけになっていますが、現実的には収入の維持や、住宅ローンなどにおいて個人事業主ゆえの難しさもあることから、その切り替えにおいては熟考を強く勧めています。本来であれば、一人ひとり、いつ業務委託に移行しても良いのでしょうが、社員には良く考え、選択してほしいと考えているため、年1回の共通プロセスを設けています。説明会を開いたのちに、個人事業主になったときの所得に関する情報提供を行い、会社としてもその人に業務を委託できるかどうかを判断した上で、両社の合意に至れば業務委託契約を締結するといった、2~3カ月にわたる検討プロセスを踏んでいます。

 4.働き方改革の成果

現在までの実績としては、2017年の初年度は私も含めて8名が活性化メンバーとなりましたが、年々増えて、2020年現在は、全社員の約1割にあたる24名が個人事業主へと移行しています。年代別に見てみると、30代、40代、50代がボリュームゾーンになっていますが、各年代から移行者が出ています。職種別では、技術・開発職、営業・企画職、事務・管理職の全職種で満遍なく活用されています。

日本活性化プロジェクトの効果を測る指標としているのが、個人の経済的自立を狙いとしている本プロジェクトの目的に沿って、社員時代と活性化メンバーになってからの手取り収入の比較です。これまで平均して22.5%の増加が確認できています。すると、会社のキャッシュアウトが増えているのではないかと思われますが、当該社員の人件費と業務委託費の増減を検証してみると、年によって微増あるいは微減がある程度で、会社側の負担は殆ど変わっていません。

私自身、個人事業主になってみて、仕事に対する意識の変化を実感しています。例えば、サラリーマンだったときには意識していなかった自分の支出について、今では経費になるかどうか、自分の仕事にどのように繋がっているのか、もっと言えば自分の仕事とはそもそも何であるのか、といったことを考えるようになりました。自分のサイフ(経費)で、自分がやりやすいように仕事の環境を整え、将来の仕事に備えて新しい人脈形成や学びに取り組むようになりました。これが、経済的自立と、仕事やキャリアを自分事化する自立に繋がっていくと考えています。

また、日本活性化プロジェクトは、様々な仕事に携わることによって仕事の幅を広げるだけでなく、個人事業主ゆえに定年に関係なく長く働き続けることを可能にしますが、その分、第一線のスキルを磨き続けることを求めます。個人の持続的成長に対する責任を果たしてこそ、活き活きと仕事に向き合う、新しい働き方を実現することができると考えています。

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