キャリア研究の第一人者 花田光世氏 特別講演 「リモート時代の新入社員育成」  | HR Leaders NEXT

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日本能率協会・HR Leaders NEXTプロジェクトでは、2020年11月~2021年1月の3カ月間に亘り、リモート時代の新入社員育成に関する研究会を実施しました。特別ゲスト講演に、キャリア研究の第一人者でいらっしゃる慶應義塾大学 名誉教授 花田光世先生をお迎えし、長いライフキャリアを見据えた上での新入社員育成がどうあるべきかについてお話を伺いました。

皆さんご存知のとおり、AI等の革新的技術によって、現在世の中にある約700の職種の半分近くが、あと10~15年のうちに消滅したり、自動化されたり、あるいは大きく役割を変えると言われています。これを働く人々のキャリアに照らし合わせてみると、頻繁なキャリアチェンジが一般化することになり、5年刻みでの新たな仕事へのチャレンジなども必要となってきます。従来私たちは、自身の技術や役割を消費期限(10-15年程度)で捉えてきましたが、マーケットはその旬を表す賞味期限(3-5年程度)で判断するようになってきているということです。賞味期限を基にしたライフキャリアを前提にするならば、人は一旦社会に出たら、定年を迎えるまでに、今まで以上に多くのキャリアチェンジを経験し、そのたびに熟練・熟達を繰り返すことになります。そのたびに前向きに取り組み、自身のキャリアを主体的に形成していくことができれば、連続的な変化の中を生き残れる人材になれると考えます。その原動力こそが、新入社員期に培われるべき力です。

それは、テクニカㇽな知識でも、効率よく仕事をすることでも、会社ルールを知ることでもありません。スキルが陳腐化しやすくなった現代においては、そのような短期視点で成果を出していく力よりも、長期視点で、自らを律して研鑽し続ける力、そして周囲とも学び合いながら、信頼し合える関係性を築いていく力が求められています。残念ながら、この信頼し合える濃厚・濃密な人間関係は、ネット上の薄い繋がりでは形成されにくいと考えます。

かつて私の研究で、入社7年目の係長レベルへの昇格や、13~15年程度の課長への第一次選抜にあたって、対象者の能力や、職場の環境を含むどのような要素が影響を与えているのかについて調査を行ったことがあります。結果、入社後の最初の上司からの3年間の評価と、その間の人間関係におけるきめの細かい総合的現場指導の影響の大きさが明らかになりました。その指導というのは、テクニカルスキルではなく、働くマインド、意欲、姿勢に関する指導です。新入社員期はとかくスキルや知識の不足を補うことに目が向きがちですが、見える化しやすものではなく、こうした目には見えない「プロフェッショナルとしての心のマナー」こそ、長いライフキャリアの中で前向きに生き続ける礎となります。

 新入社員育成を実践していく上で、いくつかのポイントがあります。まず、指導型と支援型の使い分けです。指導型はある特定の目的に向かった訓練であり、支援型は個が自身の力に気づいて発揮することを促すものです。指導領域で支援を行い、支援領域で指導行うといったボタンの掛け違い起こらないようしなければなりません。

また、今の新入社員の特性に着目した上での留意点もあります。デジタルネイティブ世代である彼(女)らは、ネットを調べればすぐに答えを得られることに慣れているため、実務の中でもすぐに正解を求めたがる傾向にあります。正解が分からない状況では、失敗を恐れて、前に一歩進むことをためらいがちです。またSNSなどを使いこなすことによって、ネット上での人間関係づくりにも慣れています。ただそこには本当に信頼され、心から受け入れられているという実感があるでしょうか。自分の存在が他の誰かにしっかりと認められているという自己肯定感があってこそ、様々なことに挑戦することができます。人材の成長には、小さな成功を積み上げて得る自己効力感が重要だと言われます。しかしながら、今の新入社員には、それ以前に、失敗・成功に関わらず、挑戦した自分が認知され、自己肯定感を得ることが必要です。それによって前に進む力を得て、自己効力感に到達できるという順序を考慮した方が良いでしょう。

以上、2021年1月19日に実施された講演より

「プロフェッショナルとしての心のマナー」が職場の人間関係から育まれるものであると考えた時に、リモート下で新入社員育成に係る人事担当者は研修やOJTにおいて、新入社員の社会人としての第一歩をどのように支援することができるでしょうか。

まず、入社から1-2カ月間に亘って実施される新入社員研修のコンテンツの見直しです。知識やスキルを詰め込む従来型の新入社員研修から、経営陣・先輩社員との接点を増やしたり、得た知識・スキルで正解のない課題に取り組んでみるような機会を設定することによって、「社会で働くとは、その企業で働くとは」の感覚をより実感を持って学ぶことができるようになります。これらがオンライン化されたとしても、デジタルネイティブ世代にとっては人にアクセスしやすく、かつ自身の考えも発信しやすい環境であり、そのメリットを十分に享受しながら実践的な学びを蓄積していくことができます。要注意な点は、情報と情報のギブアンドテイクのやりとりではなく、心と心のふれあいを通した信頼関係の構築があっての学びという視点を持つことだと考えます。

加えて、新入社員研修終了後の配属時の工夫もあります。リモート下では、従来の職場OJTと比較して、日常業務での上司・先輩からの指導・支援が行き届きにくく、場合によっては新入社員にとってはそれが孤立感にも繋がりかねないことから、これまで以上に、上司は新入社員に対するコミュニケーション量を意図的に増やす必要があります。あるいは、指導・支援の役割を上司だけに委ねるのではなく、配属される職場のあらゆるメンバーの関与が可能であれば、新入社員は受け入れられている感覚をより強く持てるだけでなく、働く姿勢を多様な人々から学び、豊かな人間関係を築いていくことができるでしょう。そのためにも、人事部門は、配属先に新入社員研修での学習内容や、そこでの新入社員のパフォーマンス・特性に関する情報等を伝達するだけでなく、職場で適切に指導・支援ができるための考え方とスキルをしっかりと付与する役割も求められています。

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