ウェビナー「リモート時代の新入社員オンボーディング」開催レポート | HR Leaders NEXT

イベントレポ―ト・リサーチ情報

HRBPのビジネス課題へのアプローチ① 経営戦略を理解する

ビジネスリーダーと共に、経営・事業のビジョン、ミッション、戦略の実現に取り組むHRBP(HRビジネスパートナー)には、日々の業務の中で発生する労務問題、人員補充への対応などに加えて、経営・事業の持続的成長を、組織や人財の面から支える役割が期待されています。では、その支援をどのような手順で実践することができるのでしょうか?

本コラムでは、JMAが実施するHRBP育成プログラム(下欄参照)のファシリテータを務める、一橋大学 商学部 准教授 福地宏之氏へのインタビューを通して、HRBPがビジネス課題にアプローチする手順を、全3回のシリーズでお伝えします。

Q:HRBPにとって、経営戦略の理解が必要だと言われますが、経営戦略を一言でいうと?

福地先生:経営戦略論では「到達すべき将来とそこに至るまでの変革のシナリオ」と表現されます。ただし、そうは言っても、何をもって「到達すべき将来の状況」とするのかが非常に難しい。とかく、自分の専門領域に偏って状況を想定してしまいがちで、全体を思い描くのは難しい。そうなると、競争優位性がある状況とは言い難い。

Q:では、到達すべき将来の状況をどのように設定すればよいのか?

福地先生:次の3つの要素に落として考えることができる。1つ目は「産業の状況」。業界内の競争構造・力学や、需要の動向がこれにあたる。その中でどのような立ち位置を取るのと儲かりやすいのかを表すのが2つ目の「戦略ポジション」。ただし、どんなポジションでもとれるわけではない。そのポジションをとれるのか、到達できるのかを決めるのは、サービスや製品を提供する「企業活動」であり、もっと言えば、その活動を可能にするヒト、モノ、金、情報といった「経営資源」とそれらを組み合わせてできる「組織能力」である。この内部にある「企業活動と組織能力・経営資源」が3つ目の要素となる。
このように、「戦略ポジション」は外部と内部の状況の兼ね合いから生まれるが、そのバランスは難しい。「産業の状況」から考えると絵に描いた餅になりやすく、「企業活動と組織能力・経営資源」から考えると、現状の延長線上になりやすい。特に大企業の場合は、現有の組織・人財の能力や強みを活かすという観点から、後者に陥りがちである。取り組み期間の長さや、リスクの許容範囲を考えて、バランスをとるポイントを決める必要がある。いずれの場合においても、この3つの要素が連動していることが大前提である。

一橋大学商学部准教授福地宏之氏 JMA人事コンソーシム資料より

Q:各要素はどのようにして分析できるのか?

福地先生:「産業の状況」の分析によく使われるのが5 Forcesという、「新規参入者」「競合」「代替品」「買い手」「売り手」の5つの要因で業界構造を把握する方法論であるが、これを上手く使いこなしている例は非常に少ない。自社を取り巻く業界の状況を、この5つの箱の中に書き入れ、現状を理解するところで終ってしまっていることがよくある。実際には、5 Forcesの有効性は、その先に業界で起こり得る事象を想定しながら、その時に各要因がどう変わっていくか、ダイナミックに業界構造をシュミレーションすることにある。例えば、これからM&Aが加速すると、この売り手の状況がどうなるのだろう?そうすると、買い手の行動はどうなるのだろう?と想像してみるのだ。

「企業活動と組織能力・経営資源」の内部資源分析には2つのツールをお勧めしたい。1つは、能力・資源自体の優劣を明らかにするVRIO。Value(価値)/ Rareness(希少性)/ Imitability(模倣可能性が低い)/ Organized(組織化)の4つの指標を用いて、保有する資源の競争力の高さを判断することができる。もう1つは、その資源を補完する様々な活動同士の結びつきを可視化する活動システムの分析である。例えば、モノ売りからコト売りへのビジネスモデル転換の中で、ソリューション提案能力の獲得・構築が求められるとすれば、それを補完する人財育成や人事評価、組織体制の整備といった様々な活動が考えられる。その活動同士の整合性が高まることで、必要な能力が構築・発揮され、強みのある企業活動になる。

第2回へ続く

Share: