人事リーダーズインタビュー

楽天の在宅勤務最前線

楽天株式会社  コーポレートカルチャーディビジョン

エンプロイーエンゲージメント部/ウェルネス部  シニアマネージャー 浅見貴之 氏

 

*本インタビューは2020年4月に実施されたものです。

 

1.在宅勤務への段階的な順応

柔軟な働き方への取組み

楽天株式会社では2月より、在宅勤務を時差出社と併せて推奨してきましたが、対応強化のため3月末より原則在宅勤務とする方針に至りました。元来より、事業所外でアクセス管理などでセキュリティを担保しつつパソコンを利用することについて(一部のグループ会社を除く)は、会社としてのガイドライン策定・運用も実績があり、テレビ会議システムも全面的に導入をしていました。2018年からは、業務の開始・終了時間を前後最大2時間までずらすことができる「R-Time Shift」を導入しています。また、妊娠、育児、介護、病気や怪我などの事由を対象とした「R-Satellite」という在宅勤務制度もあり、「R-Time Shift」と「R-Satellite」を組み合わせた柔軟な働き方を従前より選択することができました。こうした基礎経験が、今の状況になって功を奏しているのは間違いないです。オリンピック開催に向けて、昨年夏の一時期に、時差出勤や在宅勤務の予行練習に真剣に取り組んだ企業も同じように思っているのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染対策というよりは、考え得る様々な働き方を予め試しておくことは、BCPの観点からも重要です。

 

在宅勤務は業務断捨離のチャンス

実際に在宅勤務に入ってみると、オフィスで仕事をしていた時と、1日の時間の使い方は、多少、在宅勤務に合わせて調節することはありますが、ほとんど変えていません。かえって、ミーティング間の移動などがなくなっているため、仕事の処理のスピードは高くなっています。それができるための1つの前提として、ペーパーレスがあります。請求書処理や契約書類系の書類は紙媒体として残っていたのですが、新型コロナウイルス感染対策が落ち着くまでは基本的にペーパーレスでの作業が実現しています。オフラインからオンラインの業務に移行するときに、最も大切なことは、これまでやっていたことを、在宅勤務にそのまま持ち込むのではなく、何かを見直す、あるいは止める決断をすることです。その代表的なものが「ハンコ(印鑑)文化」や承認プロセスだと思います。

 

在宅勤務に順応して見えてきた課題と対策

在宅勤務に次第に順応してくると、適切な労働管理という新たな課題に直面するようになりました。オフィスで働いているときは、ミーティングの部屋が確保できない、あるいはミーティングの部屋間を大きく移動するという物理的な理由から、スケジュールに入れられるミーティングの数は限られていました。しかしながらすべてがオンライン会議となれば、物理的な制限がなくなるので、仕事がどんどん進みます。仕事の効率が良くなったことを最初はメンバー間で喜んでいたのですが、その状況は長く続きませんでした。次第に、メンバーの中からも「腰が痛い」とか「体が固まってきている」といった声が聞こえるようになりました。この経緯から、ある程度オンラインに順応できたあとは、オフラインでの仕事のやり方をそのまま持ち込むのではなく、在宅勤務にふさわしい方法や工夫を加えることによって、生産性高く、かつ安心して働ける仕組みを構築しなければならないと感じるようになったのです。

その結果、現在、私自身が部内で奨励しているのは、70%ルールです。つまり、オフィスにいるときの70%の緊張感、70%の集中時間、70%のミーティング所要時間を意識しましょう、というメッセージです。在宅だと一人きりで集中し過ぎてしまうことがあります。オフィスにいたときは、周りにいる人の声などである程度気を紛らわせながら仕事をしていたことが今になって分かります。ところが自宅で仕事をしていると、誰もいない中で自分だけの世界に没頭していくわけですから、気が付くとかなりの疲労を感じていることがあります。ゆえに意識的に休憩を入れて、7割くらいの集中時間に抑えておかないと、ストレスが溜まり、逆に生産性を落としかねません。また現在の状況下では、誰もがひとりで仕事に集中できる時間とスペースを必ずしも確保できているとは限らず、一緒に生活している家族、パートナーへお互いに負担をかけている可能性もあります。よって、残りの時間は自分自身の心身、および一緒に生活している人たちへのケアに意識的にあてるようにしましょう、と伝えています。

 

オンラインを活用した新たな取組み

オンラインでのミーティングが日常化した上での新たな試みとして、現在もオンラインでの研修中の約700名の新入社員に対して、2時間のワークショップを実施しました。ビデオ講義、セルフワーク、少人数のオンライン部屋に分かれたグループ討議を組み合わせたセッションを社内ファシリテータのみで運営しました。今までは大人数を収容できる研修会場を見つけるのが大変でしたし、スペースを借りるコストもかかっていました。この試みが成功すればこれまでの研修企画・運営の概念さえも変わるのではないかと思っています。

トップマネジメントもオンラインによるコミュニケーションをこの機会だからこそうまく活用しようとしており、約700名の新入社員に対して、毎朝30分間、楽天の大切にしている考え方について三木谷自身が伝えるセッションを開催しています。新入社員は入社してからまだ一度もオフィスに来ることができていないので、その不安を払拭するためにも有効なコミュニケーションの場になっています。

 

2.新しい働き方が機能するための、マネジメントの役割と心身健康への配慮

組織の環境適応 

新しい環境への適応という点では、楽天は社内公用語英語化を完遂した実績がありますので、その時に近いかもしれません。社内公用語英語化の時も、方針が初めて示されてから3ヶ月後、正式移行までの約2年間の移行期間に突入しました。その時、世間では「日本企業で公用語を英語化したら生産性が下がる」と言われていました。実際、導入直後は、コミュニケーションのスピードは一時的に下がったかもしれません。しかし、次第に英語での業務遂行が当たり前になった後は、グローバルでのコミュニケーションが活性化することによって仕事の幅が広がり、結果、トータルでの会社としての生産性および社員一人ひとりの能力は劇的に向上したと思います。この時の経験が、現在の在宅勤務でも再現されており、最初は生産性が下がったとしても、一旦順応できれば、オフラインの時以上に生産性を上げられるのではないかと考えています。ただし、いくら過去の経験があると言えども、在宅勤務に組織が順応していくのは簡単なことではなく、組織が変わっていくプロセスの中で留意しなければならないこともあります。

 

マネジメントの役割 

そのひとつがマネジメントの役割です。在宅勤務を運用していくうえで、マネジメントの役割も基本は変わりません。マネジメントは日頃から社内外の人たちと交流を図る機会を多く持っていますが、オンラインにおいてもその仕事自体は変わりません。ただし、オフィスにいて部下の仕事をただ監視していただけのマネジャーであれば、その仕事はなくなってしまうでしょう。マネジャーが、自身の役割を、監視役ではなく、チームメンバーに自走してもらうための仕組・環境づくり、そして部下を勇気づけることだと改めて認識する必要があります。

私の1日は、朝、オンライン上でチームの皆をcheer up、鼓舞することから始まるわけですが、それがチームマネジメントにおける最大の仕事だと思っています。そして先述のように皆が、ミーティング時間・集中時間・緊張感70%で安心感を持って生産性高く働ける環境を整備していくことも重要であると考え、メッセージを発信すると同時に自らも実践することによって、マネジャーとしての役割を遂行しています。

 

社員の心身の健康への配慮 

2つ目として、この緊急事態下において、在宅勤務が長く続くことによる心身への影響も考慮する必要があります。私が兼任で担当しているウェルネス部は、社員の心身の健康を管理することを目的に、ストレッチやメンタルヘルスのオンラインセッションを社員に対して企画・提供しています。イントラネットで、コンテンツ動画を配信するだけではなく、各部門・チームがオンラインミーティングを行っている場にウェルネス部のトレーナーが参加して、ストレッチのやり方などを教える出張講座も実施しています。そして、出張講座の際に、各チームでウェルネスリーダーを決めて、以降、自分たちで同じようなエクササイズをチームミーティングの中に取り入れてもらうようにしています。

また、著名なアスリートの方々に、心身の健康をどのように管理しているかをお聞きするインタビュー取材を行った動画なども、健康管理に対する社員の意識を高めるために役立っています。

楽天ならではのユニークな取組みとしては、外国籍の社員が、手洗い・うがいの仕方を英語でガイダンスしている動画もイントラネットの中に用意しています。国によっては手洗い・うがいの習慣が異なる場合もありますので、こうした動画もグローバルオペレーションを基本としている企業では大変有用だと考えています。

以上のように、様々な活動を通して、心身の健康に対する意識と行動を全社的に共有する働きかけをしています。ウェルネス部から発信するメッセージはいずれも、世の中の先行きが不透明で暗くなりがちな時だからこそ、社員に愉しく、ポジティブに受け止めてもらえるように心がけています。オフラインあるいはオンラインのどんな働き方にせよ、Optimism、つまり「楽天」的という組織文化を大切にし続けています。

 

楽天の在宅勤務の取組みは、こちらからもご覧いただけます。

 

 

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