WORK MILL “ありたい姿”から「はたらく」を考える
多くの企業において在宅勤務が実施されている現在、アフターコロナの働き方はどうなるだろうか、あるいは「はたらく」ことに対する価値観や生き方がどう変わるのだろうか、ということが働く人々の関心事になっています。このような問いに以前から取り組んでこられた株式会社オカムラ(旧岡村製作所)様に、同社が考える「はたらく」についてお聞きしました。
【語り手】
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 所長 内田道一 様
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 第一リサーチセンター 所長 森田舞 様
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 第二リサーチセンター 所長 上西基弘 様
*本インタビューは2020年4月に実施されたものです。
WORK MILLとは
オカムラでは「働く環境を変え、 働き方を変え、 生き方を変える。」を掲げ、社内外の新しい働き方をリサーチして新しいワークプレイスをデザインし、発信するWORK MILLという活動を2016年から実施しています。1980年に「オフィス研究所」を設立し、長年にわたり家具や空間提供を通じて「はたらく」を調査・研究してきましたが、より多くの方々の働く未来を支援したいという思いからWORK MILLをスタートさせました。
WORK MILLには主に3つの活動があります。1つ目は、「Forbes JAPAN」編集部とのコラボレーションによるビジネス誌の発刊です。経営戦略の視点から新たな価値を生み出す「働き方」や「働く場」の情報を、これまで年2回のペースで発信しています。
2つ目は、ウェブマガジンの配信です。「はたらく」をより深く本質的に考えるため、オカムラ独自の取材、調査、編集を行い、オンラインで情報発信を行っています。
最後は、「Open Innovation Biotope」と呼ぶ共創空間の提供です。顧客や「新しい働き方」にご興味のある方をお呼びして、様々なテーマでイベントやセミナーを開催しています。現在、東京、名古屋、大阪、福岡の4拠点に共創空間がありますが、例えば東京の「Sea」と名付けた共創空間は、ラボオフィスのひとつである「CO-Do LABO(考動ラボ)」に併設され、社内の活動にも広く活用されており、いつも賑わいを感じることができる場となっています。
これらWORK MILLの活動に一貫する特徴として「答えのないものをすくい上げていこう」という試みがあります。自分たちがこれまで気づいていなかったような課題をこの共創空間で顕在化しています。加えて、その課題解決のために議論を重ねるプロセスを経て、オフィスにおける人と人とのコミュニケーションや繋がりの重要性を改めて認識することもできます。
新しい働き方の中で求められるチームワーク
オカムラはオフィス家具メーカーですから、これまで製品を中心に顧客の職場づくりを支援してきました。しかし昨今の働き方改革の中では、「働く場や環境」とあわせて「運用・制度」「ICT・ツール」といった全てを包含する視点を持って、顧客と一緒になって「働き方」そのものを考え、具現化することが求められるようになってきています。
これからの「働き方」に目を向けたとき、働き方改革で求めるものは?と問いかけたアンケートでは「チーム力の強化」が重視点として挙げられています。「チームワーク」は個人と組織の両方の視点から企業経営にとっては必須だと考えられています。
個人が主体的に動くためには、自分がどのような組織に属しているのかを明確に自覚させることが非常に重要だと、組織行動学では言われています。いわゆる「帰属意識」です。帰属と自律、矛盾しているかのように思えるかもしれませんが、人は組織に属しているという安心感や競争心があるからこそ、主体性をもって働くことができるということです。その意識に個人差はありますが、人の本質として理解しておかなければならないポイントです。
一方、組織の観点で言えば、チームワークによる人と人とのコミュニケーションから“知”の化学反応を起こし、新しい商品や事業を創出することが期待されます。特に現在の新型コロナウイルスによる経済活動の自粛や経済不安の中では、人しか持ちえない“知”を集結させることに一層の焦点が当てられるのではないかと考えます。それによって企業の継続、差別化が成しえるのではないでしょうか。
チームの拠り所となる「BUSHITSU/部室」
私たちが実験的に社内で展開するラボオフィスのひとつである「CO-Do LABO」では、ICTの進展によって、在宅勤務やサテライト・シェアードオフィスといった働く場所の多様化が進む中で「チームワーク」を確保していくためには、人が集まるオフィス空間だからこその意図的な働きかけが必要となっており、その具体的な提案として、「部室」という考え方を作り出しました。それぞれの組織・チームごとに、自分たちが使いやすいようにアレンジできる専用スペースとして「部室」を設け、実用しています。
また、この「CO-Do LABO」では、入居する社員は発信機を装着し、一人ひとりがどこにいるのかリアルタイムに共有するとともに、誰とコミュニケーションを取っているのかをセンシングで追跡しています。そのデータと、社員と組織の相互理解や相思相愛度合いをはかるエンゲージメントサーベイやオフィス環境に対する満足度調査、仕事の生産性に関する調査の結果等を合わせ見ることによって、定量面、定性面(行動、感情等)の相関性を分析し、両面から組織パフォーマンスに寄与するより有効なオフィスづくりを探索しています。
「部室」の実用を通して分かってきたことは、フリーアドレスやABW(Activity Based Working)の導入等によって、自由に働く場所を選べるようになり部門を超えた横の連携が強化された後、再びタスクを共にするチーム内の連携を確保する、つまり組織内の縦と横のつながりのバランスを保つために有効であることです。「部室」の利用者にそのメリットをアンケート調査で尋ねたところ、回答者の約6~7割が「打合せが効率的にできる」、「チームの一体感が高まる」、「同僚と顔を合わせる機会が増える」、「上司と部下との情報共有が円滑になる」と答えています。この結果からも「部室」がチームの拠り所として機能していることが分かります。
WORK MILL Research Report 「柔軟に働ける時代のチームの拠り所 ― BUSHITSU」
https://workmill.jp/webzine/20200115_wmr01bushitsu.html
オフィスのあり方の変化
コミュニケーションスペースや共創空間へのニーズの高まりは、昨今のオフィス専有面積やオフィススペースの使われ方の動向からも見て取れます。
働く場所の選択肢が増えてきているため、オフィスの専有面積自体は日本全体で縮小傾向にありますが、オフィスのスペース配分みると、カフェテリア等を含む、人々が交われる共創空間スペースの割合は拡大傾向にあります。例えば、受付やロビーといったスペースもその機能だけに使われるのではなく、社内外の人々が交われる共創要素を含んだものに変貌してきています。
現在、在宅勤務によってオフィスで働く人が激減した状態で、多くの経営者が、今後どれくれいの執務スペースが必要になるのかを考えていることと思います。少なくとも、これまでの「一人当たり面積×人数」で、執務スペースを確保する考え方は変わってくるでしょう。
一方、個人の生産性向上に寄与する「働き方」も、現在のような在宅勤務によって個人作業時間の割合が増える中では考えておかなければなりません。業務特性や、個人の仕事の仕方に拠るところが大きいため、個人にとって何がベストかを一概に言うことはできませんが、個人の様々なニーズに対応するためには、企業としても「働き方」の選択肢を様々に用意しておく必要があります。昨今、顧客からよく相談を受けるオフィス内で実践できる改革として、ABWやフリーアドレスがあります。これは個人の自律性や主体性を引き出し組織運営の効率化が重視される昨今の人材マネジメントの傾向に起因するものと考えられます。しかしながら、全職種がフリーアドレスに適しているかと言えば決してそうではありません。集団でこそ力を発揮できる職種にはフリーアドレスは必要ありません。
つまり、フリーアドレスを用いて部門を超えたコミュニケーションを促進するにしても、個人の作業スペースで提案書や見積書の作成に集中して取り組むにしても、「何のために」があってこそ、効率的で生産性が高く働くことが可能になります。
「ありたい姿」を描くことから始める働き方改革
オカムラの社内で働き方改革を推進している中でも、一番大きなポイントは、社員一人ひとりが、自分たちの「ありたい姿」を考えることです。経営者や管理者が企業の働き方を示すことは重要ですが、働く人々がそれぞれ「自分自身はどうありたいのか」「私のチームはどうありたいのか」を描き、そのビジョンを実現できる働く場所の構築・運用プロセスに主体的に関わっていくことが求められます。「自分は何のために、どこで、どんなふうに仕事をしたいのか。そのためにどんな環境が必要なのか」、それを自分自身で問うことから働き方改革は始まります。
経営的視点では、すべての社員が会社に出勤してもらった方が、管理しやすいことは確かです。しかしながら、経営者に企業価値を高める責務があるとすれば、これからは社員が働く場所を自由に選ぶことができ主体的に働ける環境を整えることによって、社員のエンゲイジメントを高め生産性が高い組織を作ることが重要だと思います。
これからの「はたらく」
新型コロナウイルス感染拡大への対策として在宅勤務を始めてから、当社の社員対象ではありますが、在宅勤務に関する緊急アンケートも行っています。在宅勤務ならではの良さを見出している人、在宅での働く場や音、家事・育児の問題等様々な意見が出ています。これまではオフィスへの出社が当たり前でしたが、今後は、自分が今手掛けるべき仕事に最も適した場所や空間を選択するように変わってくるのではないでしょうか。また、昨年、テレワーク・デイズに参画した際に実施した社員アンケートでも、テレワークによって、部下・上司・同僚とのコミュニケーションに障害が生じたという社員は全体のわずか3%であり、リモートワークが仕事の生産性を阻害しない、あるいは阻害したとしても、一定以上の生産性が期待できることが分かってきています。
在宅勤務調査速報版
https://workmill.jp/webzine/20200424_telework202.html
私たちは今後、仕事の内容に合わせて働く場所やスタイルを選んでいくことになるでしょう。どんな働き方を選択しようとも、個人が自らその目的を考えて、ありたい姿を描き、そこに向かって行動することが求められています。このビジョナリーな思考と行動は、経営者にもこれまで以上に必要とされます。組織としての哲学や理念、ビジョンを明確にし、社員に対して「働き方を変えて生産性を高めよう」ということを示し、働く人のモチベーションを高めることです。社員と経営者、それぞれのビジョン形成とその合意形成が、個人と組織の双方にとってのより良い「はたらく」を創り出せると信じています。
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