「日本的人事」の外側を見る~SHRM2017から見えたこと~ vol.2
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株式会社ピープルファースト
代表取締役八木 洋介 氏
2017年10月13日
優秀な人材に世代は関係ない、「人」を活かす
基調講演には『ワーク・ルールズ!』の著者、ラズロ・ボック(グーグル人事担当上級副社長)も登壇しました。彼がグーグル社で実践した人事の話です。
以下、ラズロ・ボック氏の講演内容一部
“ラズロ・ボック氏は、ベストセラー「Work Rules!」の著書であり、グーグル社の人事担当上級副社長として、2005年から2016年の間にGoogleの従業員数を6,000名から76,000名に増加させた。働き方をより良くすることを使命としており、人事部門はキーポジションであると語った。従業員をより幸せに、より生産的にするには何が必要か、以下の6つのヒントが示された。
- 1.仕事の意味を与える
仕事をより大きな目的につなげることで生産性がアップする。「なぜこの仕事をしているのか」に対し、意味ある答えを見つけること。 - 2.信頼を築く
従業員を信頼すること、その人本来の良さを信じていると示すこと。このことは従業員が高学歴だろうと高卒だろうと関係なく、企業に利益をもたらす。 - 3.自分よりも良い人材を雇う
人は誰しも、自分と同じ関心ごとや背景に基づいて応募者を選択する傾向がある。このバイアスを抑えるため、当該チームのマネジャーを採用プロセスから外し、別途”雇用委員会”のような組織をつくる。 - 4.「不公平に」報酬を払う
優秀な人材には相応の報酬があってしかるべき。従業員間で少なくとも50%の報酬差があってもいい。「間違っていると思うかもしれないが、これをしなければ競合に最高の人材を奪われてしまうだろう」と述べた。 - 5.ナッジを提供する(選択に影響する介入をする)
新入社員で早くパフォーマンスを上げた人には共通点があり、彼らは多くの人に会い、多くの質問をしていることがわかった。そこで、新入社員とその上司に多くの「つながり」の重要性と、多くの「つながり」を生める設備を整えるようメールをした。これにより、新入社員がパフォーマンスを上げるのに平均9ヶ月かかると見積もっていたが、それを6ヶ月に短縮することができた。このように、何がパフォーマンスに影響しているのかを見極め、小さな介入(この場合、たった2本のEメール)をすることが違いを生む。 - 6.繰り返す
上記を何度も繰り返すこと。
ラズロ・ボックの場合は、行動科学や脳科学を人事活動と融合させるような話をしていて、アメリカの最先端企業の人事の方向性について一つの提案をしてくれた気がします。先述のパトリック・レンシオーニが「人の時代」ということを言って、そしてそれを最先端の方法で実践する方法をラズロが語っている、非常に明確なメッセージでした。
All Inと言いながらも所々にエッセンスが入っていました。トピックの1つとして特徴的だったのは、マルチジェネレーションのマネジメントの話ですね。ミレニアルズだけでなく、ベビーブーマー、ジェネレーションX・Y、そして最近ではZの世代が協働をしたときに、会社がどう変わらなくてはいけないかということが議論されていました。日本では相変わらず中高年の男性がビジネスの中心にいるため、あまりこのような議論になりませんが、若くて優秀な人、あるいはデジタル面では若い人の方が圧倒的に長けているので、そういう人たちをどう活用しようかと思った瞬間に、マルチジェネレーションのマネジメントについて考えることになるのです。日本でも若い有能な人はたくさんいますので、彼らの強みを活かすためにこの議論から学ぶことは大きいです。
機能しないノーレイティングより”けじめ”をつけるレイティングを
ノーレイティングのディスカッションも議論がありました。年に1回レイティングするよりは、適宜コーチングした方がいい、フィードバックした方がいい、というように捉えられていました。これは明確に今すぐのフィードバックを欲しがるミレニアルやZ世代の人たちを活気づかせるための施策から来ていると思います。一方で、ベビーブーマーやその次あたりというのは年に1回の評価が欲しいと思う傾向にありますので、世代によって異なります。実際のところノーレイティングは、フィードバックとは別物の話です。ノーレイティングを今回のSHRMでは大きくは取り扱っていませんでした。日本は何年か遅れで何か騒ぎ始めていますけど、アメリカではすでに「ノーレイティングは機能しない」と気が付き始めているのではないでしょうか。
重要なのはレイティングではなくて、フィードバック。だから、今回も「フィードバックをちゃんとやりましょう」「コーチングをちゃんとやりましょう」「コミュニケーションをちゃんと取りましょう」というのは、あちこちで議論されていましたが、「レイティングをやめましょう」という議論はほとんどありませんでした。つまり、アメリカでもノーレイティングは、おそらく様々な議論のなかで、後戻りしつつあるのではないかと思っています。
私は、レイティングはした方が良いと考えています。よく言うのは、猫は誕生日を祝わないけれど、なぜ人間は誕生日を祝ったり、成人式をやったり、入社式をやったりするのか。これは、今日、この日から別の自分を作るという”けじめ”の日なのです。だから、これは通過儀礼と言っていいと思うのです。今日、ここから私は変わると。そういうポイントを持っているのですね。猫は別に、今日お誕生日だからと祝うということはしないですよね。だから、人間というのはそういうけじめが必要なのです。
毎日毎日フィードバックする。確かにいいですよ。だけど、そうではなくて、「この1年振り返って、あなたはやはりここを直した方がいいよ」というポイントを持っている。このマイルストーンをしっかり持つことによって、気付きというのは生まれます。だから、毎日行っているからいいやというものではないのです。毎日言うフィードバックと、年に1回するフィードバックは違います。両方必要なのです。
