「日本的人事」の外側を見る|2017 SHRM Annual Conference & Exposition参加レポート | HR Leaders NEXT

SHRM 2017 参加レポート

「日本的人事」の外側を見る~SHRM2017から見えたこと~ vol.3

株式会社ピープルファースト
代表取締役

八木 洋介 氏

2017年10月13日

ダイバーシティの課題、日本と同じこと違うこと

加えて、従業員の健康という話題も結構出てきていました。これは、コンフリクトマネジメントやストレスマネジメントとの話題とも結びついていました。これも1つはインターネット時代のメンタル・マネジメントという側面もあると思いますが、日本で言われているような上司と部下の関係に起因していることもありそうです。旧来型のベビーブーマーたちがミレニアル世代にこれまでと同じようなやり方で指示をしても、受け入れられないということが職場で出てきているのではないでしょうか。ベビーブーマーとミレニアルでは、働き方、生き方に関する価値観が明らかに異なるので、こういうところでストレスを生んでいるのではないのかと思います。逆も然り。アメリカは実力主義なので、ミレニアルが上に来て、ベビーブーマーが下に来るということもあるわけですよね。これはベビーブーマーにとってストレスになります。いずれにしても、コミュニケーションの仕方が変わり、世代ギャップが明らかになってきたところで、ストレス、コンフリクトが生じていることが考えられます。
ダイバーシティの中でも今回女性に関して言われていたのは「Woman in C-Suites」。要は、女性をこれまではマネジャーにしましょうという議論だったのが、そうではなくて、ファンクションや事業のトップにしましょう、どうやったらそうなれるのかという議論にフォーカスが移りつつあるということです。日本はまだマネジャー、マネジメントポジションにどうやって就けようかと言っていますが、米国ではCXOに就けようということを言っているわけです。イノベーションの側面からのダイバーシティの重要性はありますが、やはり社会を構成する中で女性と男性が両方いて、そのどちらかしか活用できないということでは当然のことながら企業としては競争力が弱くなります。

人事だからこそ、人間を科学すべき

SHRMでのトピックとしてもう一つ強烈なのは、テクノロジーとサイエンスです。具体的に言うと行動科学と脳科学の世界です。この分野で日本にも研究者がいますが、アメリカではそれが実際のビジネスに使われているわけです。日本として学ばなければいけないのは、調整とかネゴシエーション役としての人事ではなくて、例えば行動科学と脳科学を通して、人間とは何かということをもっと根本的に研究して、人の活力を上げ、生産性やイノベーションを促進する形で人事の中に生かしていくということです。
例えば基調講演のラズロ・ボックの話を聞いていると、行動科学を生かしているというのは彼の「ナッジ(nudge)」という言葉に明確に出ていました。ナッジは直訳すれば「そっと押す」という意味ですが、「誘い水」とでも行った方がイメージが湧くと思います。例えばグーグルというのは、食堂の他にカフェテリアを持っています。それを従業員、社員の福利厚生だと思っている人がほとんどだと思いますが、グーグルの経営者たちの意図は、議論を誘うことです。イノベーションを起こすためです。これは、社員が自由勝手気ままに自分と関係のない人たちとしゃべって、そしてそこから新しいものを生み出す「誘い水」としてやっているのです。これは、明らかに行動科学から出てきています。
 日本の人事は、従来型の調整人事をやるのではなくて、脳科学だとか行動科学というものをしっかり学んで、人間を科学として捉えてどうするかと考えることが必要になってきています。例えば、会社で白か薄い色のブルーとか、そういう薄い色のシャツで会社に来てください、ルールです、ドレスコードですというようにするのと、「何を着てきてもいいですよ。TPOでやってください」というのとどちらがいいかということです。何でもルールで「やれ」というときの人間のやる気と、「皆さんはTPOで適切な服装をして来てくださいよ」と言うのと、どちらがいいかということです。

ルールに頼る「日本的人事」の外を見よ

日本の人事はルールによるマネジメントに頼りがちです。人事だけではないですよ。現場の人たちも「人事がルールを決めてくれないからできない」という議論がものすごく多いのです。「人事がやり方を決めてくれないから、コーチングができない」「人事が教えてくれないから、フィードバックができない」そういう他律思考に現場も慣れてきてしまったのではないでしょうか。人間は本当はそうではなくて、もっと自由度があるなかで、自分で考えて行動する時の方がやる気というのはたくさん出るのではないかと、ずっと言い続けています。どういうふうにしたときに人のやる気が一番出るのかということを考えるきっかけというのを、今の行動理論は私たちに与えてくれます。これまでの日本の人事がやってきた文化になってしまった人事を継続させるのではなくて、いま一度人間というのを見直してみる大きなきっかけになります。
これまでお話しをしてきたように、人事パーソンひとりひとりが、自分たちを取り巻く環境と世の中がこれからどう変わるのか、その中での自分たちの役割は何なのか、人間の本質とは何かを、一度、日本的人事の外側に出て考えてみることが、グローバル競争の中で過渡期にある日本企業の人事にとって非常に大切だと思います。

Share: