「日本的人事」の外側を見る|2017 SHRM Annual Conference & Exposition参加レポート | HR Leaders NEXT

SHRM 2018 参加レポート

強くて良い経営を実現する、アジャイル人事2018 SHRM Annual Conference & Exposition参加レポート

株式会社ピープルファースト
代表取締役

八木 洋介 氏

2018年8月9日

日本と比較して、アメリカの人事の決定的な違い・強みがあるとすればアジリティでしょう。

脳科学・行動科学・組織心理学にしても、絶対的な理論が判明していない中でも、「多分そうだろう」といった段階で仮説を立てて動いているのがアメリカの人事です。

一方、日本は、人事の活動に限らず、理論が証明されるまで待っている傾向にあります。この差が、企業競争力に大きく影響を与えていくでしょう。世界最先端の動きを捉え、それが現状では完璧ではなくても、仮説を立てて動くことの重要性を今回改めて認識しました。

その意味で、世の中のメガトレンド、特にデジタルをはじめとしたテクノロジーが私たちの生活・企業経営に与える影響についてもっと感度を高めておかなければなりません。

人事パーソンが人事のことだけを勉強している時代ではないということです。
例えば、デジタル化によって24時間、365日繋がれるようになった世界、かつ様々な世代が混在する職場の出現によって、仕事と生活、人と人の間にコンフリクトが起こりやすくなり、人事としては従業員の心理的な安全の保障、職場のコンフリクトマネジメントへの取組みが求められてきます。

かつて日本能率協会のプロジェクトで日本の経営がこれからどうなっていくかということを議論した時に「強さと良さ」ということを提唱し、以降もずっとその考えを持ってきました。

本大会のプログラムから見えてきた今のアメリカの企業経営の姿は、それにマッチしています。
アメリカはもともと「強さ」が前に出ている経営を行ってきましたが、ここにきて「良さ」というところにフォーカスしてきています。

Trust、エンゲージメント、人間性を重視したオーセンティックリーダーシップが多く語られている点から、人材や人事を大事にする「良い経営」に目覚め始めていることが見て取れるのです。

Adam Grant氏の話に戻ると、彼は、イノベーティブな組織を創っていくためのヒントを提示する中で、「自分の組織はユニーク」といって学ばないことに警鐘を鳴らし、人と人のアイデアを繋げる知識共有のチャネルをもっと作っていくべきだと述べました。

例えば、先述の人事における科学的なアプローチの中でも脳科学と心理学が結合して、新しい見解を生み出そうとしています。

ただし、これはプロフェッショナル同士がその知を交流することが前提です。プロフェッショナルは、特定分野を極めたスペシャリストとは異なります。

スペシャリストはテクノロジーによって代替されやすい側面がありますが、プロフェッショナルは、Adam Grant氏が言うところのコントリビューターであり、経営に対して価値をもたらす替え難い存在なのです。

私たち人事パーソンが如何にこのコントリビューターになれるかということを考えると、人事が持っている知識はテクノロジーに容易にとって替わられるかもしれませんが、そこから生み出される価値の代替は難しいです。

だからといって、知識が不要ということではありません。自分の脳の中ではなく、外付けに知識を保管しておくことができるような時代が来れば話は別ですが、今の段階では知識・情報を自らの中に取り入れ、蓄えて、そこから新しい価値を生み出していくことになります。

SHRM大会を見ていると、少なくともアメリカの人事パーソンは、AI、脳科学、心理学といった新しい動きを積極的に捉えようとしていることが分かります。日本の人事パーソンは、社会のトレンドや人事の新しい動きに対して高いアンテナを張り、自らが生み出す価値を意識し、高めていく努力を怠らず、そのプロフェッショナリティを磨いていくことが益々求められていくでしょう。

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