CHROとして如何にビジネスに価値をもたらすか | HR Leaders NEXT

人事リーダーズインタビュー


第1回 パフォーマンスを重視する組織への変革
Prudential Assurance Company Singapore Limited
Chief Human Resource Officer (CHRO)

Ms. Sheela Parakka

※所属・役職インタビュー当時

2019年6月23日

長寿社会とプルデンシャルにおける定年の撤廃

シンガポール人は健康で長生きするようになりました。1970年代半ばには100人に満たなかった100歳以上の人口は、現在では1,000人を超えています。

プルデンシャルが2018年9月に発表した「100歳への備え(Ready for 100)」研究によると、1,214名の回答者のうち、財政面および健康面で100歳まで生きるための備えができていなかった人は50パーセント超にのぼりました。シンガポールでは医療費が高騰しています。このことは将来、誰にとっても課題となるでしょう。この点でプルデンシャルには企業として、従業員がこの課題に備えられるようにする責任があります。

シンガポールの法定定年は62歳です。とはいうものの、ほとんどの人が62歳を過ぎても働き続けることを望んでいます。事実、当社の調査によると、55~64歳の人の65パーセントが、キャリア延長に向けて生産的であり続けるため、必要なスキルの獲得を継続する自信があるとしています。できるだけ早期の引退を望んでいたのは、回答者1,214名のうちわずか4パーセントでした。

現在、平均寿命は83歳で、少しずつ100歳に近づきつつあります。このような高齢化社会では、62歳でのリタイアは現実的ではないかもしれないことが分かりました。 62歳で引退し、100歳まで生きるとすると、リタイア後の生活は40年近くになります。そうなると、貯金を使い果たした後に金銭的な困難が生じる可能性があります。これを踏まえ、プルデンシャルでは2018年10月、シンガポールの金融機関としては初めて定年を撤廃し、従業員が職務を遂行することができる限り、雇用を延長することができるようにしました。62歳以降も全社員と同等の医療等の福利厚生があり、以前と同じ賃金を受け取れます。また、退職のタイミングは自分で選択し、その際には退職金も支払われます。

プルデンシャルは、パフォーマンスと人材の能力を中心に据えた変革を続けています。その中核は、年齢などを障壁としない適材適所です。有能な人であれば、85歳であろうが25歳であろうが年齢不問とすることを目指します。

従業員への機会提供

企業として、プルデンシャルではここ2年間、従業員に対して十分なキャリア開発の機会を提供してきました。いかにして従業員の新たな機会を社内に創出するかについても、強く意識してきました。年齢にかかわらず、従業員には自分のキャリアに責任をもってもらいたいのです。また、オーナーシップを持って、自発的に「デジタルの世界で起きていることをもっと知りたい。自分の能力をここからここまで伸ばしたい」というようなことを言ってもらいたいのです。

当社では2017年に、キャリアチェンジに関するプログラムを導入しました。このプログラムは、当社でスキルアップに成功した従業員の配置転換で、新しい機会を求める従業員向けのものでもあります。2018年には全従業員の14パーセントがこのプログラムを利用し、キャリア形成の一環として新しい役割に就きました。

当社では従業員の年齢に関わらず、全従業員に対し、イノベーション、起業などの分野のコースを受講してスキルアップするよう奨励しています。自身のスキルアップやリスキルを行い、現在のデジタル経済にふさわしい人材であり続けてもらうためです。その一環として、当社のパートナーであるSkills Future Singaporeを通じて、デジタルスキル構築に向けたデータ分析、ソーシャルメディア、サイバーセキュリティのコースを受講する機会を提供しています。

全従業員の3分の1以上が、Skills Future Adviceによるキャリア研修も受講しています。また、「金融におけるAI(AI in Finance)」というオンラインコースでは、保険会社としては初めてNgee Ann Polytechnicという教育機関と連携しました。

当社の目標と文化

プルデンシャルでは、雇用主として社会的責任があることを非常に明確にしています。リスキルの必要性は、常にビジネス戦略や組織、組織文化の変化から生じます。当社の信念と指針が、当社の文化の基盤を形作り、存在意義や目的を定義します。さらに重要なこととして、従業員が目的を果たすために必要な能力も明確化します。 プルデンシャルの経営陣は、相当な時間をかけて文化と戦略の両方に同時に取り組みました。それによって、変革の過程で前向きな成果を非常に短期間で出すことができました。

当社の目的は「あらゆる人が豊かに暮らすのに役立つイノベーションを起こすこと」です。 企業として、あらゆる人が豊かに暮らすお手伝いしたいと願っています。私たちはこのことを、シンガポールのあらゆる人が、健康や財政の状況に関わらず、社会的なつながりまたは社会構造の中で豊かに暮らすことと考えています。一方、プルデンシャルにおいて文化とは、目的と意志のある組織運営を規定する指針です。目的のある、価値観に裏打ちされた文化を推し進めることによって、当社の目的、志(ビジョン)、戦略的取組みを実現させることができます。

当社では、指針とする価値観を表現するのに「イノベーション」という言葉を選びました。保険業は現在、大混乱の中にあり、生き残るには私たち自身にイノベーションを起こし、他社と差別化するしかありません。当社ではイノベーションを価値観の中心に据えています。それは新しいiPhoneを発明するようなことでもなく、日々の業務の進め方について、それまでとは違う考え方をすることです。

当社にはイノベーションの他に、協力(Collaboration)・権限委譲(Empowerment)・信頼(Trust)・説明責任(Accountability)の、目的を支える4つの価値観があります。「協力」とは、会社全体として仕事に取り組む姿勢を示します。さまざまな部門と部署がサイロ化するのではなく、一つのチームとして連携する方法を考えなくてはなりません。次に「権限委譲」という価値観ですが、これは管理職がメンバーに対してその仕事の意味付けをしたうえで権限や職務を委譲することを意味します。このことは、組織の開放性を高め、従業員のアイデアを育むのにも役立ちます。「信頼」が意味するのは、自分自身とチームのメンバーを信頼するだけではなく、ステークホルダーから信頼してもらうことです。保険は信頼のビジネスです。私たちが仕事をするのはステークホルダーの利益のためであり、何よりも重要なのはお客様の利益です。最後に「説明責任」についてですが、従業員が権限を委譲されてその役割を果たす際には、その仕事についての責任を負うことになります。典型的な階層型の組織では、説明責任は通常、上司が負います。しかし、従業員への権限移譲が始まると、パフォーマンスの点でも部下にしっかりと責任を持たせなければなりません。最終的には、部下自身のパフォーマンスが評価されるのですから、その責任も当然自らが負うのです。

これらの価値観は当社の従業員とともに生み出したものであり、2017年から始まった当社の「Culture Journey」を背景に導入されました。これは組織として変革が必要な理由を全員に認識してもらうことを目的とした活動でした。私たちは当時の当社の立ち位置と、その後向かう方向性について議論しました。こうして、皆で5つの価値観(イノベーション、協力、説明責任、信頼、権限委譲)を発案したのです。

ほとんどの場合、変革には相応の時間が必要です。当社では、6か月ごとに会社全体の状況を確認しています。価値観を体現しているか?目的に沿って仕事をしているか?従業員に役立っているものとは?従業員が今、組織に望んでいるものは?従業員が将来、組織に望むものは?これらはすべて、マズローの欲求階層説から導き出されたバレット・バリュー(Barrett Values)に基づくもので、変革力のある組織の構築に適しています。誰にでも大切にしている価値観があります。その価値観は生い立ち、教育、家庭環境などを通して確立されたものです。ある組織に入るときには、その企業文化に同じ価値観があることが望ましいものです。それは仕事の充実感、楽しさにつながります。

当社では無記名のアンケート調査で、価値観の実践状況について6か月ごとに従業員に確認しています。このアンケートにより、従業員は自分たちが大切にしている価値観のトップ10(学びの継続、尊敬、家族など)を共有します。この結果を現在の組織のあり方と比較します。また、将来組織に臨むものとの比較には、より重きを置きます。アンケートの回答を活用して、組織における改善が必要な点と現状のままでよい点を検討しています。

人員計画

組織変革にはさまざまな変化が伴います。変化を起こすためには複数の要素が必要です。明確な戦略的方向性、強力なリーダーシップ、コミュニケーションの透明性、従業員をサポートする様々なツールが必要になります。

当社では戦略的人員計画(strategic workforce planning:SWP)を適用し、事業の総合的な目標を達成するための必要な人材の確保に向け、現在および将来の採用ニーズの予測にうまく役立てています。組織を包括的に再設計してプルデンシャルの将来の人材状況について再検討し、最適な経営モデルを構築しました。また、将来に向けてビジネスと人材を最適化するために、組織構造・オペレーション・能力を変革するために必要な措置も講じました。

人材変革

当社では現在と将来求められる能力の差を突き止めたうえで、市場での希少性とビジネス戦略における重要度に基づいて200の役割を特定しました。これらの役割に対して、3年間(2018~2021年)のヘッドカウント予測を加味しながら、各従業員を現職レベルでマッピングし、さまざまなビジネスニーズおよびビジネスシナリオに対応するようにしました。

未来の人材へ向けた準備として、8つの新しい役割と15の変革に関する役割の導入も行ってきました。変革に関する役割の一つに、Head of Innovationがあります。これは、アップスキルの機会や新しい考え方に触れる機会の提供を通じて、全従業員の中に眠るイノベーションのスーパーヒーローを引き出す役割です。人材をセグメント化することで、プルデンシャルでは人材開発の対象となる従業員を絞り込んでいます。

プルデンシャルの大きな目標である成長と迅速な変革には、不可欠な要素がもう一つありました。それは、従業員にさまざまな働き方を熟知してもらうことです。これには様々なステージのキャリア、キャリアチェンジ、スキルアップ、リスキルなどに精通することが含まれます。また、次世代の人材を呼び込んだり、富裕層・投資・バンカシュアランス・分析・デジタルなど経営が重視する分野で高い能力を持つ人材も戦略的に獲得しました。当社では従業員の能力に的を絞った戦略を積極的に策定し、従業員の人としての成長およびキャリアアップの支援を目指しています。

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