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南山大学 安藤史江教授 執筆論文(2020年『南山経営研究』掲載)

「チーム活動の意義の検討 ―組織学習の観点から―」要約

組織が目標の実現を目指すとき、組織のメンバー同士が共有された明確な目的のもと、より緊密な相互作用と強い一体感を持って、様々な課題解決に取り組んでいくチームとしての活動が多くの企業で用いられています。

個人よりも、チームで取り組んだ時の効果には、量と質の双方があります。量に関しては、単独で行うよりもチームで行ったほうが、多くのタスクを、より速いスピードでこなせること。質に関しては、多様な視点を併せ持つことで多くの代替案が生まれ、より根源的で高レベルの問題解決が可能になったり、革新的もしくは創造的な成果を生み出しやすくなったりすることが想定されています。

その一方で、すべてのチーム活動がそうしたポジティブな成果を生み出すわけではありません。チームメンバー間に感情的なコンフリクトが生じれば、当然ながら、チーム活動はうまくいかず、成果も期待できません。また、メンバーそれぞれが依拠する価値前提や言語に十分な調整が図られないままであると、互いに接点を見出しにくくなります。その結果、たとえコンフリクトが生じなくても、自然にチーム内のコミュニケーションは不全になります。その調整や解決に対応策が必要になると、チームという形態の選択は、組織にとってむしろマイナスに作用する恐れすらあります。
もともとチームとは時限的・暫定的な性質をもつもので、チーム形成と解散のたびにこのマイナス作用が起こり得るとすれば、年度の業績達成のためだけに、「個人」ではなく「チーム」の活動を選択するのは、あまり合理的ではありません。

それでもなお、チームとしての活動を重視するのには別の大きな意味があります。それが「組織学習」です。短期的な財務的成果ではなく、その持続的創出の基盤となる組織能力の向上こそが重要であり、そのような組織の潜在的および顕在的な能力を向上させるうえで必要不可欠とされるのが、組織学習プロセスです。つまり、チーム活動をより有意義な結果に帰結させるためには、組織能力の向上を可能にする「組織学習」が目的の 1 つに据えられるべきだと考えます。

全国展開をしている中堅人材サービス会社 S 社の正規および非正規の組織メンバーに対して行われた質問票調査では、チーム活動と財務成果・組織成果の関係について興味深い結果が示されています。チームを①「チームの意義を明確に認識しているチーム」②「チームでもいいが、単独でも機能するチーム」③「意思疎通が 十分に行われないチーム」の3つに類型化し、財務成果や組織成果と照らし合わせた結果、チーム活動が最も効果的と言える①のチームには、「他の職場での失敗事例からの学習」「新しいことへの挑戦」「多様なメンバーとの切磋琢磨」といった組織学習だけでなく、個人の成長実感の傾向を見て取ることが出来ました。ところが、このような組織成果との強い相関の一方で、財務的成果との関係性はあまり見られませんでした。他方で、組織的成果と財務的成果の両方に対して強い相関を表していたのは、②「チームでもいいが、単独でも機能するチーム」であることが分かりました。

この調査結果は、組織学習はもちろん、組織業績に対する成果を得るためには、単にチームとして協働するだけでは不十分であり、チームメンバー全員がリーダーシップを発揮し、単独でも動ける状態でなければならないことを示しています。チームは作るが、それに安住したり、依存することなく、チームメンバーが単独で動けることはやはり組織成果にとって非常に重要なことなのです。そのためにも漫然とチーム活動を行うのではなく、チーム活動の意義を最大化することを意識したマネジメトが益々求められています。

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