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HR Leaders NEXTウェビナー第5弾では、オンラインによる新入社員オンボーディングの事例として、凸版印刷株式会社の取組みをご紹介しました。 

「新入社員研修の在宅オンライン化と独自プログラムによる教育革新」
巽 庸一朗 様 凸版印刷株式会社 人事労政本部 人財開発センター・センター長 

 凸版印刷では、入社から3年間をファーストキャリアと位置付けて、本社および各事業本部が連携しながら社員を育成しています。ファーストキャリアのゴールを以下の通り設定しています。

①トッパン社員としての価値観の理解・共有
②自己信頼の醸成
③社会人としての基盤知識・スキルの習得
④自分を客観視することによる自律的な成長能力と習慣化する力の獲得
⑤同期ネットワークの構築による生涯にわたる協力体制基盤の確立

この3年間の教育と実務経験を経て、初めてトッパン社員として一人前になると考えています。3年間の具体的内容としては、まず1年目を本社人財開発センターによる定期大卒新入社員研修でスタートし、配属本部での研修から職場におけるOJTへと続きます。OJTでは全ての新人にブラザ―・シスターが付いて、業務指導だけでなく様々な相談に対応します。入社2年目になると、再度本社に集合して「2年目研修」が行われます。ここでは入社してからの理想と現実のギャップを共有しながら、必要に応じて人事や職場からのサポートを提供します。入社3年目にも同様の集合研修があり、上記に掲げた3年間の目標が達成されているかどうかを最終確認します。  *「2年目研修」「3年目研修」もオンライン化へ

 凸版印刷での能力開発の考え方として、4つの能力区分が基盤にあります。通常の「Toppan Knowledge(知識)」「Toppan Skill(技能)」に加えて、「Toppan Spirit(価値観)」と「Toppan Sense(感性)」を重視しています。この能力区分は、トッパングループの企業理念・経営信条に立脚しています。「世界を豊かで美しい感性で捉えて(Sense)、顧客第一主義/人間尊重/誠意・熱意・創意で受け止め(Spirit)、彩の知(Knowledge)、彩の技(Skill)を使って、こころを込めた作品を創りだし、情報・文化の担い手として、ふれあい豊かなくらしに貢献していく」という考え方に基づいています。これを、新入社員教育にも反映しているのです。

2020年度の新入社員研修は、定期大卒社員417名を対象に、計27日間にわたりオンラインで実施しました。全体は3つのステージに分かれています。第1ステージは基盤教育で、従来集合研修でおこなっていたものをオンラインに変換したものです。第2ステージでは、「社会的価値創造企業」という凸版印刷の経営目標に則したプログラムを実施しています。第3ステージでは、昨今の事業で必須となっているデジタルトランスフォーメーションを取り上げ、その基礎教育を行っています。

実施成果を受講者アンケートで確認すると、満足度99%、理解度99%、活用度99%と、全ての指標において過去最高の数値でした。アンケートと同時に行われた、基盤知識や制度の理解度に関するアセスメントでも、過去8年間で最高となる平均95.9点を達成しました。能力区分別に見てみると、「Spirit」と「Knowledge」は前年以上に理解度が高まっています。一方で、「Skill」と「Sense」は前年よりスコアが落ちる結果となりました。それは、安全道場の体験や、ビジネスマナーの実習など体感型のいくつかのプログラムが、オンライン化できなかったことに起因するのではないかと考えています。

第1ステージで実施した在宅オンライン研修の3つの特徴を挙げます。1つ目は、新入社員417名をネットワークで繋いで、20名に1人の割合で先輩社員を付けてフルサポートしたことです。先輩社員は、朝昼夕の定期コミュニケーションに加えて、新入社員が毎日作成する日報にアドバイス・コメントを記述して返します。この先輩社員は、各部門から選出されることが、当社の毎年の慣わしになっています。この役割を担うと、自分の業務を横においても、新入社員の育成を優先できるように、各部門長・所属長の理解を得ています。こうして丁寧に新入社員に接することが、一度も出社せずに在宅で研修を受ける新入社員の不安を解消し、安全を担保しています。

特徴の2つ目は、51本の独自のオンラインコンテンツです。動画コンテンツ(講義を録画したもの)、音声スライドコンテンツ(PPTに説明音声を組み込んだもの)、生配信講義と、プログラムに合わせてコンテンツの提供方法を変えています。コンテンツに関する受講生アンケートによると、これら3つのうち、約半数が、動画コンテンツが最も学習効果が高いと回答しています。細かい数字や情報が入るものは、音声スライドコンテンツのほうが見やすいという声もありました。動画・音声スライドコンテンツはいずれも、復習で利用されるケースが多く、その結果として記憶定着に効果があったと考えます。

特徴の3つ目として独自のコンディション教育とオリジナルコンディション管理アプリの活用があります。各自のコンディションを見える化するとともに、新入社員同士でコンディションスコアを競い合いながら、良い習慣を身に付け、生産性向上に結び付けることを目指しました。毎日、歩数・睡眠時間・自律神経の測定結果に対する個別フィードバックと、個人ランキングの発表があり、ゲーム感覚で楽しみつつ、各自の意識を向上させることができました。

第2ステージで実施した社会的価値創造企業に向けた教育は、「Toppan Spirit」を育む仕掛けになります。この教育の中には3つのワークを取り入れています。1つは東日本大震災の被災地である福島で凸版印刷として何ができるかを考え、行動するワークです。凸版印刷では、2013年より階層別研修や選抜研修で福島フィールドワークを実施しています。その実績をもとに、プログラムを新入社員用にカスタマイズして実施しました。2つ目は、障がいを持つアーティストの作品を扱い、凸版印刷の技術を用いてその価値を高め、社会的課題解決と経済的利益を両立させるソリューションを生み出すものです。3つ目のワークでは、コロナ禍で凸版印刷に何ができるかを問いました。いずれも、「Toppan Spirit」を醸成し、社会的価値創造企業になるという経営目標を具体化するアプローチです。そのプロセスで同期や先輩社員とのディスカッションを繰り返して、トッパン社員としての価値観を体得することができました。

次年度以降に向けてはテクノロジーを活用した教育革新を加速していきたいと考えています。一方で、オンライン実施による健康へのネガティブインパクトを総合的に評価しなければならないという認識も強く持っています。オンライン研修だけを評価すると、知識の理解度や定着において効果があったと見れますが、その時の人のコンディションを管理するノウハウも併せて提供し、新しい時代に則した学びのあり方を今後も探究・実践していきたいと考えています。

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